彼の印象も、ずい分、長い間、悪かった。
「このバンド、ヴォーカルがネックだなぁ。何とかならないわけ?代われば、結構いいのに、惜しいっ」
とまで公言して憚らなかった…。あのヴォーカルスタイルが、どうしても、苦手だったのです。
が、ある日突然、日々同じ時刻に流れていた為、既に聴き慣れていた「ロマンス」に、
「……ん!?」何かが舞い降りました。「これでいいんだ!うん!」となぜかそんな言葉が浮かんで、
いきなり、HAKUEIという存在をわかってしまった気がしました。
というよりも、本当に、瞬間的に、その魔力へのバリアが開放され、突き抜かれた感じでした。
それからは、インディーズ時代からの、かなり多めのリリース物を、USEDで集め、
聴けば聴くほどに、以前は、あんなに不快だったモノが、何と、素敵に素直に快く響くことか!
そして、その描く世界の、良い意味で、何とバラバラなことかと(笑)。
まったくもって、掴みどころのない、くるくると動き回る無邪気な瞳のように、映す世界は千変万化。
心に痛い切ないバラードの「太陽の国」と、クワガタやカブトムシを歌った「男のロマン」などが、
同じアルバムに入っていたりするのですから(笑)。
母体とするPENICILLINのみならず、ソロでの活動を経て、
期間限定の予定だった完璧なるキャラクター設定のユニットmachineも成功させ、
存続させていたりと、何とも器用で、タフな男であるわけです。
そして、私の中で、HAKUEIという存在が決定的に棲みつくこととなったのは、
ロック・オペラ「ハムレット」のハムレットを演じ切った時点からでした。
決して、上手いとは言える演技ではなかったのですが、演技を超えた存在感として、
まさしく、ハムレットは適役で、これまで、数々のハムレットを観て来た私でしたが、
間違い無く、誰のハムレットをハムレットと選ぶかは、彼、HAKUEIが最高です。
映画「サーティー」にても、その存在感が生きて、とてもいいムードのある作品になっています。
かといって、その存在感ゆえ、ありがちな「ミュージシャンの出演している」然とした映画
の印象も皆無で、何と言うか、ミュージシャンHAKUEIの存在感を排除した、存在感。
そうなのです。彼の、最も凄いところは、圧倒的な存在感を放ちながら、
その光が、常に、その場に、最も相応しい屈折率で、自然と発せられる点なのです。
まさしく自然体。どう創り込もうと、自然体。完全なる自然体。
これからも、その燦然とした光で、私を惑わせ続けていて欲しいです。