ねぇ、本当は、誰が一番なの?」

「今は、一至」

「それじゃあ、昨日は?」

「誰も」

「一昨日は?」

「利華だったかな。祥之だったかな。忘れた」

「明日は?」

「知らない」

 

 彼は、屈託の無い笑顔で素直に答える。面倒臭がっているようでも、とぼけているようでもない。

 それが、彼の中にある真実なんだ。

 彼は、その心の中に、誰をも棲まわせない。いや、正確に言うのなら、誰も、そこまで辿り着けない。

 彼が、本当は何を想って、何を考えているのか、誰にもわからないのだ。

 

「どうして、いつも、同じこと、訊くわけ?」

「「今は一至」って聴けるから」

「そんなこと。誰にでも言うよ、俺」

「他の奴に向って、「一至」とは言わないだろ」

「あはっ。それはそうだね。別のカズシが現れない限り」

「どうして、そんなコト、言うのさ」

「思ったことは、口にするよ。ん、んっ」

 

 ならば、その口を塞ぐしかないよね。

 ああ、でも、仕掛けたはずの俺は、いつでも、かなわない。彼のキスは、完全に俺を制圧する。

 大胆に弾かせるその舌先と、繊細な動きの唇で、すっかり俺の身体は、熱くなり、

 すぐにも溶け出してしまいそうだ。

 だから、たまらずに、しがみつく。より強く、それを感じたくて、彼の髪にしがみつく。

 ああ、息が出来ないよ!

 そう、仕掛けた俺を、彼は、極限まで、許してはくれない。

 

「はぁ〜ぅ!はぁぁ〜っ」

 俺は、肩で息をする。彼の呼吸は、少しも乱れない。

「好きだよね。一至は、これが一番」

 お見通し。彼は悪戯っぽく、俺を見つめて微笑む。

 もう、彼のペースだ。

 

 そうして、みんなが、陥ちて行く。みんなが、みんな、陥ちて行く。

 彼という、とてつもない、迷宮へ……。

                                     

                         1999.7.23